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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)3025号 判決

原告

中井康博

右訴訟代理人弁護士

出田健一

被告

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

笹原滋功

被告

大阪玉川農業協同組合

右代表者理事

西野陽

右訴訟代理人弁護士

村田善明

(関係人一部仮名)

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  甲野一郎と被告甲野花子(以下「被告花子」という。)との間で昭和五九年四月二三日別紙第一目録記載の建物(以下「本件建物」という。)について成立した財産分与を取り消す。

2  被告らは、それぞれ本件建物についての別紙第二目録記載の各所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

主文と同旨。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五九年二月五日、甲野一郎(以下「一郎」という。)に対し、三〇〇万円を利息は年一割五分、弁済期は昭和六一年二月四日と定めて貸し付けた。なお、右消費貸借契約の際、借用証書上は貸主を中井昌利名義としたが、同人は原告の子であつて、右の実際の貸主は原告である。原告と一郎は、その後の昭和五九年三月二三日、右消費貸借契約の弁済期を同年四月五日に変更した。

原告は、同年九月一八日、一郎から一五二万〇六七七円の弁済を受けた。

2  一郎は、妻であつた被告花子と離婚し、昭和五九年四月二三日、同被告に対し財産分与として本件建物を譲渡し、同建物について同被告のため別紙第二目録一記載の所有権移転登記(以下「本件一の登記」という。)が経由された。

一郎は、右財産分与当時、本件建物を除いては他に見るべき財産がないにもかかわらず、原告ら他の債権者を害することを知りながら、あえて右財産分与をしたものである。

3  被告大阪玉川農業協同組合(以下「被告組合」という。)は、昭和五九年四月二三日、本件建物を被告花子から譲渡担保として譲り受け、その旨の別紙第二目録二記載の所有権移転登記(以下「本件二の登記」という。)を経由した。

4  そこで、原告は、詐害行為取消権に基づき、一郎と被告花子との間の前記財産分与の取消及びこれを原因とする本件一、二の各登記の抹消登記手続をなすよう被告らに対し求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

1  請求原因1の事実は不知。

2  請求原因2の事実のうち、一郎が妻であつた被告花子と離婚して昭和五九年四月二三日に同被告に対し財産分与として本件建物を譲渡し、同建物について同被告のため本件一の登記が経由されていることを認めるが、その余は不知。

3  請求原因3の事実を認める。

4  請求原因4は争う。

三  被告らの主張

1  被告花子の主張

(一) 離婚に伴う財産分与は、原則として詐害行為取消権の対象とならず、ただ当該財産分与が財産分与に仮託してなされた不当な財産分与であると認められるような特段の事情が存する場合に限り詐害行為としてその取消の対象となるにすぎない。

一郎と被告花子との間においてなされた本件建物の財産分与は、これを不当とするような特段の事情が存しなかつたから、詐害行為とならない。

これを詳述すると、次のとおりである。

(1) 本件建物は、登記簿上は一郎の所有名義となつていたが、真実は一郎の所有ではなく、被告花子の養母甲野ハナ(以下「ハナ」という。)の所有あるいは同人と右被告の共有であつた。

被告花子は、昭和二八年ころから甲野太郎(以下「太郎」という。)及びハナ夫婦の事実上の養子となつて同居していたが、昭和三四年一一月五日、いわゆる「入り婿」としての一郎と婚姻するとともに、太郎、ハナ夫婦と養子縁組をした。

当時、本件建物の敷地上には太郎所有の木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建店舗床面積三四・五四平方メートル(以下「本件旧建物」という。)が存していたが、昭和四五年一二月一〇日ころ同建物は改築のため取り壊され、その跡に本件建物が建築されて昭和四六年一二月一七日にその保存登記が経由された。その際、太郎、ハナ、被告花子は、共同で右建築費用四五〇万円を出捐したが、一郎は、その建築費用を何ら負担しなかつた。

ところが、一郎は、太郎、ハナ及び被告花子が無知であるのに乗じて、勝手に本件建物について自己所有名義に保存登記を経由した。

(2) 被告花子と一郎との結婚生活は、太郎、ハナ夫婦と同居して営まれたが、一郎は、自営業をしていたものの、婚姻当初から生活費を全く入れないばかりか、甲野家から金員を持ち出す状態であつた。そのため、甲野家の生計は、被告花子が会社員として勤務することにより得られる給料と太郎及びハナの財産の売却代金とによつて維持されていた。

(3) 昭和五八年一二月末ころ、一郎に対する債権者が多数おしかけるようになり、一郎が行方を晦ましたので、被告花子が調査したところ、本件建物について、①債権者を大阪信用金庫、債務者を一郎ほか一名、極度額を五〇〇万円とする根抵当権設定登記、②大阪信用金庫に対する代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記、③加藤末二郎に対する代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記、④樋口寿美子の申立に基づく競売開始決定による差押登記がそれぞれ経由されていることが判明した。

そこで、被告花子は、一郎との離婚を決意するとともに、甲野家の唯一の不動産であつて長年の住居としてきた本件建物を一郎から取り戻し、かつ、同人の債権者から守るため、一郎と交渉した結果、本件建物によつて担保されている債務をすべて同被告において支払うこととする代わりに、同建物を離婚に伴う財産分与として一郎からその所有権の移転を受け、右建物について本件一の登記を経由した。そして、被告花子は、被告組合に対し本件建物を譲渡担保に供して一〇〇〇万円を借り受け、本件建物について被告組合のため本件二の登記が経由された。

被告花子は、右借受に係る一〇〇〇万円でもつて右債権者に対する各債務を弁済し、前記①ないし④の各登記の抹消登記手続をしてもらつた。

(4) 以上のとおりであつて、被告花子と一郎との離婚は真実のものであり、一郎から被告花子に対する本件建物所有権の移転は財産分与の形で清算されているものの、その実体は甲野家の財産というべき右建物を本来の姿に戻したという意味合いがあるから、一郎から被告花子に対する本件財産分与は何ら詐害性を有するものではない。

(二) 右(一)で述べた本件建物が一郎から被告花子に財産分与された経緯に照らして、右被告に詐害の意思がなかつたことは明らかである。

2  被告組合の主張

(一) 一郎から被告花子に対する本件建物の財産分与は、次に述べるとおり、被告花子も右建物について潜在的所有権を有していたこと、同被告が一郎との離婚に関して慰藉料を含めた財産分与として本件建物の譲渡を受けることが相当であつたこと、右のような財産分与以外に財産分与の方法として適当なものがなかつたことに照らすと、詐害行為とはならないというべきである。

(1) 被告花子の養父であつた亡太郎は、昭和二六年ころ、徳野久三郎から本件旧建物をその敷地賃借権とともに譲り受け、昭和四六年三月ころ、本件旧建物を取り壊してその跡に本件建物を改築した。

右の経過からして、本件建物は、太郎所有名義に保存登記がなされるべきであるにもかかわらず、いかなる理由からか一郎の所有名義に保存登記が経由された。

本件建物の公租公課は、太郎死亡の昭和四八年一一月二四日以降、同人の妻ハナがこれを納付し、一郎はその前後を通じて全くこれを負担していなかつた。

以上の事実に照らして、本件建物は、その登記簿上の所有名義にもかかわらず、一郎の所有に属さず、太郎の生前は同人の所有に、同人の死亡後はその相続人であるハナと被告花子の共有に属していたものである。

(2) 被告花子は、一郎の浪費その他の行状を鑑みて、同人との間に婚姻を継続し難い重大な事由があると考えて離婚を決意し、一郎と協議した結果、同被告と一郎との間に離婚の合意が成立し、それに伴う慰藉料を含めた財産分与として本件建物を一郎から右被告に譲渡することになつた。

ところで、分与者が債務超過であるという一事によつて、相手方に対する財産分与をすべて否定するのは相当でなく、相手方は、右のような場合であつてもなお、相当な財産分与を受けることを妨げられないものと解すべきであるから、本件財産分与をもつて詐害行為に該当するとするのは妥当性を欠く。

(二) 被告組合は、昭和五九年四月二三日、被告花子に対し、一〇〇〇万円を最終弁済期限は昭和七〇年三月三一日と定めて毎日五万円ないし一五万円ずつ分割して支払う、利息は年九・五パーセントと定めて貸し付け、その債権を担保するために右被告との間で同被告所有の本件建物について譲渡担保契約を締結し、右建物について本件二の登記を経由した。

四  被告らの主張に対する答弁及び反論

1  被告花子の主張に対する答弁

(一) 被告花子の主張(一)の冒頭部分を争う。

(二) 右被告の主張(一)(1)の事実のうち、被告花子が、昭和二八年ころから太郎、ハナ夫婦の事実上の養子となつて同居していたところ、昭和三四年一一月五日いわゆる「入り婿」としての一郎と婚姻するとともに太郎、ハナ夫婦と養子縁組したこと、当時太郎が本件旧建物を所有していたこと、昭和四五年一二月一〇日ころ右旧建物が取り壊され、本件建物が建築されて昭和四六年一二月一七日に一郎の所有名義に保存登記が経由されたことを認めるが、その余は否認又は不知。

(三) 右被告の主張(一)(2)の事実を否認する。

(四) 右被告の主張(一)(3)の事実のうち、本件建物について同被告主張の各登記が経由されていること、同被告が一郎との離婚を決意して同人と交渉した結果、同被告主張の約定で同被告が一郎から本件建物の財産分与を受けたこと、同被告が被告組合に対し本件建物を譲渡担保に供して一〇〇〇万円を借り受け、右建物について本件二の登記が経由されたこと、被告花子が右借受に係る一〇〇〇万円でもつて右登記によつて担保されている債務を弁済して右各登記の抹消登記手続をしてもらつたことを認めるが、その余は不知。

(五) 右被告の主張(一)(4)を争う。

(六) 右被告の主張(二)を争う。

2  被告組合の主張に対する答弁

(一) 被告組合の主張(一)の冒頭部分を争う。

(二) 右被告の主張(一)(1)の事実のうち、太郎が昭和二六年ころ徳野久三郎から本件旧建物をその敷地賃借権とともに譲り受けたこと、太郎が昭和四八年一一月二四日に死亡したことを認め、その余を否認する。

(三) 右被告の主張(一)(2)の事実のうち、被告花子が一郎の浪費その他の行状に鑑みて同人との間に婚姻を継続し難い重大な事由があると考えて離婚を決意し、一郎と協議した結果、離婚の合意が成立しそれに伴う慰藉料を含めた財産分与として本件建物を一郎から被告花子に譲渡することになつたことを認め、その余は争う。

(四) 被告組合の主張(二)の事実を認める。

3  原告の反論

(一) 財産分与の際に分与者が無資力のときは、分与者は分与すべき財産を有していないというべきであるから、分与者が他に資産を有していないにもかかわらず離婚に際しある財産を分与した場合は、債権者取消権の他の要件を具備する限りその分与を詐害行為として取り消すことができる。

(二) 被告花子と一郎との間になされた本件建物の財産分与は、次に述べるとおり、民法七六八条三項の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があつた。

(1) 本件建物の土地利用権付評価額は、民事執行の際の鑑定人の評価によれば一七八五万二〇〇〇円であるところ、被告花子と一郎との間の離婚原因は婚姻を継続し難い重大な事由によるもので、その婚姻期間は二五年であつた。最高裁判所昭和五四年度司法統計家事篇によると、婚姻期間二〇年以上の夫婦間の平均財産分与・慰藉料支払額は三四七万円であるから、本件財産分与は、慰藉料額を考慮に入れても過大にすぎる。

(2) 仮に、被告花子が本件建物によつて担保されている一郎の債務一〇〇〇万円を立替払いしたとしても、本件財産分与の実質分与額は七八五万円以上となり、右司法統計による平均財産分与・慰藉料支払額の二倍以上となるから、依然として過大にすぎる。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一一郎が妻であつた被告花子と離婚して昭和五九年四月二三日に同被告に対し財産分与として本件建物を譲渡し、同建物について同被告のため本件一の登記が経由されていること、被告組合が同日に本件建物を被告花子から譲渡担保として譲り受け、その旨の本件二の登記を経由したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

そして、〈証拠〉を総合すると、請求原因1の事実をすべて認めることができる。

二ところで、離婚に伴う財産分与は、民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為とはならないと解するのが相当であるから(最高裁判所昭和五八年一二月一九日判決・民集三七巻一〇号一五三二頁参照)、一郎から被告花子に対する本件建物の財産分与について右のような特段の事情が存したか否かについて、判断する。

太郎が昭和二六年ころ徳野久三郎から本件旧建物をその敷地賃借権とともに譲り受けたこと、被告花子が昭和二八年ころから太郎、ハナ夫婦の事実上の養子となつて同居していたところ昭和三四年一一月五日いわゆる「入り婿」としての一郎と婚姻するとともに太郎、ハナ夫婦と養子縁組をしたこと、昭和四五年一二月一〇日ころ本件旧建物が取り壊され、本件建物が建築されて昭和四六年一二月一七日に一郎の所有名義に保存登記が経由されたこと、太郎が昭和四八年一一月二四日に死亡したこと、本件建物について被告花子の主張(一)(3)で記載するような各登記が経由されていたこと、被告花子が一郎の浪費その他の行状に鑑みて同人との間に婚姻を継続し難い重大な事由があると考えて離婚を決意し、一郎と協議した結果、本件建物によつて担保されている債務をすべて同被告において支払うこととする代わりに同建物を離婚に伴う財産分与として一郎からその所有権の移転を受けたこと、同被告が本件建物を被告組合に対し譲渡担保に供して一〇〇〇万円借り受け、これをもつて右登記によつて担保されている債務を弁済して右各登記の抹消登記手続をしてもらつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

右争いのない事実に〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

1  太郎は、ハナのいわゆる「入り婿」であつたが、昭和二六年ころ、徳野久三郎から本件旧建物をその敷地賃借権とともに譲り受け、これに居住していた。

2  被告花子は、昭和二八年ころから太郎、ハナ夫婦の事実上の養子となつて同居していたが、昭和三四年一一月五日、いわゆる「入り婿」としての一郎と婚姻するとともに太郎、ハナ夫婦と養子縁組をした。それ以降、右四名が本件旧建物で同居していた。

3  本件旧建物が老朽化したので昭和四五年一二月一〇日ころ取り壊され、その跡に本件建物が新築されたが、その建築費用四五〇万円の大部分はハナが出捐し、その一部を被告花子が負担した。一郎は、右建築に際し、大工の手配や建築代金の支払などに当たつていたが、その費用を何ら負担しなかつたにもかかわらず、昭和四六年一二月一七日に本件建物について自己所有名義に保存登記を経由した。

4  太郎は、昭和四八年一二月二四日に死亡し、ハナと被告花子がこれを相続した。

5  一郎は、被告花子と婚姻後は不動産取引業などを営んでいたが、生活費を入れず、生計は、被告花子がプラスチック工場や大同工業株式会社に勤務して得た給料とハナが内職をして得た収入とによつて賄われていた。

一郎は、昭和四七年ころから、他の女性と関係を結んで殆んど帰宅せず、被告花子の留守中にその印章を持ち出して同被告名義で借金を重ねていたため、被告花子は、一郎との離婚も考えたが、子らが成人するまで我慢することにした。

6  一郎の債権者が昭和五八年一二月ころから本件建物におしかけ、一郎が行方を晦ましたため、被告花子において調査したところ、本件建物が登記簿上は一郎の所有名義になつていること、右建物について、①債権者を大阪信用金庫、債務者を一郎ほか一名、極度額を五〇〇万円とする根抵当権設定登記、②大阪信用金庫に対する代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記、③加藤末二郎に対する代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記、④樋口寿美子の申立に基づく競売開始決定による差押登記がそれぞれ経由されていることが判明した。

そこで、被告花子は、一郎の浪費その他の行状から鑑みて同人との間に婚姻を継続し難い重大な事由があると考えて離婚を決意し、甲野家の唯一の不動産であつて長年の住居に使用してきた本件建物を一郎から取り戻し、自己ら母子やハナの住居としてこれを確保するため、一郎と交渉した結果、本件建物によつて担保されている債務をすべて同被告において支払うこととする代わりに同建物を離婚に伴う財産分与として一郎からその所有権の移転を受けた。

被告花子は、一郎から本件建物を離婚に伴う財産分与としてその所有権の譲渡を受けた日の昭和五九年四月二三日、本件建物を譲渡担保に供して被告組合から一〇〇〇万円を借り受け、これをもつて右建物によつて担保されている債権者の各債務を弁済し、前記①ないし④の各登記の抹消登記手続をしてもらつた。

7  昭和五八年八月当時の本件建物の土地利用権付評価額は、民事執行の際の鑑定人の評価によれば一七八五万二〇〇〇円であつた。

以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

以上の認定事実によると、本件建物は実質的にハナと被告花子の共有に属していたものであつて、登記簿上のみ一郎の所有名義とされていたにすぎないこと、右被告と一郎との離婚原因は同人の不貞行為と浪費とに基因するものであること、被告花子にとつては本件建物は従来から生活の基盤となつてきたものであり、同被告及びハナらはこれを生活の基礎としなければ今後の生活設計の見通しが立て難いこと、その他婚姻期間、右被告の年齢などの諸般の事情を考慮するとき、本件建物が一郎にとつて唯一の所有名義の不動産であり、その土地利用権付評価額が一七八五万円であることをしんしやくしてもなお、右被告に対する本件建物の譲渡が離婚に伴う慰藉料を含めた財産分与として相当なものというべきであるから、これを詐害行為にあたるとすることができない。

なお、原告は、財産分与の際に分与者が無資力のときは、分与すべき財産を有していないというべきであるから、分与者が他に資産を有していないにもかかわらず、離婚に際しある財産を分与した場合は、債権者取消権の他の要件を具備する限りその分与を詐害行為として取り消すことができる旨主張するけれども、前掲最高裁判所判決の趣旨に照らして、右主張は採用することができない。

三以上のとおりであつて、一郎から被告花子に対する本件建物の財産分与が詐害行為にあたることを前提とする原告の本件各請求は、その前提自体において理由がないから、その余の点について判断するまでもなく、失当として棄却を免れない。

四よつて、原告の被告らに対する本訴各請求は、いずれも失当としてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官辻 忠雄)

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